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「物語―青春の煌めき」―15―誕生日会に行くと≪4≫

哲也は「通夜」の客」の映画を見て美人であれば黙って座っているだけでも絵になるという。
その美人が恵子と舞子のクラスで机を並べている山本町子の名前を出した。田舎の高校にしては珍しく女優並の美人だった。山間の田舎にどうしてこんな美人が生まれたのか。ほとんどの人がそう思うほど美人だった。新任の若い教師は授業を忘れて町子の側に行っては見とれているほどだった。男子生徒には手の届かない高値の花、見て憧れているだけだった。
そして俊道は言った。
「黙っていてはいけない。話さないと何も生まれてこない。『通夜の客』は黒の喪服を着て訪ねて来る女性、葬儀をする家族には知らない人が亡くなった人のお通夜に訪ねてきた。黙っているから絵になっている。有馬稲子の生まれ持った美人と生きてきた人の成りが見えて絵になっている。しかし俺たちは話さないといけない。話してお互いの意志を確認して意見が違えば話し合って行く。会話づくりの基礎ではないかと思っている」
「俊道は新しい風の話をしているが俺はやはり一般に言う言葉、立てばシャクヤクの花、座ればボタンの花、歩く姿はユリの花が町子にぴったりである。歩く姿は清楚で綺麗。黙って歩いていても絵になっている。来年の文化祭には町子を主役にして劇をしてもいいと思う」
横から舞子が口を挟んだ。
「あの人が好みでしたか」
「好みというのでなくて映画、通夜の客を見て町子と有馬稲子の映画と重なってきた。町子もそんなに話さないようだから映画見ていて重なっただけ」
と言うと恵子が横から口を挟んだ。
「男子生徒から見ると町子は話さないように見えているのですね。それが町子はよく話すのよ。気心知れると本当によく話す」
「えっ。恵子にはよく話すのにどうして私にはそんなに話してくれないの。挨拶だけしかしないわ」
「あっ。それは舞子が町子に闘争心を持っているからよ。舞子は新しい感覚で男子生徒の関心を集めているけれど好きになってくる男性は限られている。哲也さんのように俊道さんと仲良しなので俊道さんの新しい感覚に少し心を開いたので舞子の新しい感性に魅力を感じたのでお付き合いをしているのですね」
「そうだよ」と哲也は頷く。
恵子は自分が美人でないので顔の美しい女性に興味を持っていた。
それでなるべく町子に話しかけた。
そうすると町子は下駄箱に入ってくる交際申込の手紙に心を開いたのが1級上の野球部で活躍する生徒だった。同じ電車通学、野球部員の生徒は町子が下車する駅まで一緒に下校した。駅で少し話をして男子生徒が自宅に戻る列車が来るまで駅で話した。そんな他愛もないデートをしていた。話せなかったことは手紙で書いた。何日か1度、手紙を交換していた。
そんなときに町子がある日、恵子に言って来た。
「ここから文章が出て来ないから後、どうしたらいいのか教えて」と言った。
クラスの中でも恵子は文章を書くことが好きということが知られていた。
恵子は便箋の最初のところを見た。
「お手紙ありがとう。ありがとう。ありがとう」と書かれていた。なんとか続きを作ったが果たしてそのまま出したのか本人に聞いていない。
ありがとうが3回も繰り返している。よほど手紙を書く相手の人のことが好きなのだなあと町子の気持ちが伝わってきた。
哲也は話す。
「映画女優の応募してみたらいいと思う。女優になればうちの高校、田舎だけど1度に有名になる」
舞子は「何言っているの、とうに有名よ。将棋で活躍するKさんが卒業生でうちの高校も案外有名よ。この間、古典の先生が言っていた。将棋の大会で学校に来られない時は同じクラスの女子高校生がノートを取っていて学校に戻って来るとそのノートを渡していたという。確かその女子生徒と結婚したと聞いている」と話す。
そして恵子は町子のことで知っていることを話した。
「女優はしないわ。うちのクラスの美知子がある映画の女優を募集していたことを知った。歌手の橋幸夫の相手役、映画は『江梨子』、おちゃめで世話焼きの美知子が公募に出す写真を欲しいと町子さんに話したの。そしたら彼女は言ったわ。私は相楽郡という自分の住んでいる所からでることができない。私には兄2人と姉が1人いて末っ子が私です。昭和28年の大雨で山城水害の時に兄を2人亡くしている。町子は小学校3年で母親がおんぶ紐で負ぶって洪水の中を逃げたので助かった。子どもを抱っこして逃げた人は迫ってきた水で子どもが流されて多くの子どもが亡くなった。
町子は話す
「うちのおかあさん。おんぶ紐で私を負ぶったのがよかったのです。兄2人もとりあえず安全なところに逃げたのに兄2人は家のことが気になると言ってまた自分の家に引き返したのです。そのとき山崩れにあって兄2人が亡くなりました」と町子が話していたことを話した。
恵子の話は続く。
「姉はすでに嫁いでいて町子と親だけ残ったという。町子は『親は私を溺愛しています。学校の帰りが少しでも遅くなると駅まで迎えに来ていました。私が映画女優になってどこかに言ってしまったらもう田舎の家に戻ってこないと思っているので親は今住んでいるところから絶対に出さないから』と言ったという。応募しょうとした人に本当の話をして理解してもらって応募を取りやめました。私は応募しょうとした美知子から話を聞いて町子のことが少し分かりました」
「えっ。なんで美智子に話して私に話してくれないの」
「だって舞子は町子に関心がないから美知子が話さなかったの違う」
「そうね。私はソソとしていて黙っている人と性にあわないから話をしないわ」
俊道が言う。
「やはり会話をしないと何もわからない。現実に舞子は町子の事情を知らなかった。しかし美知子は町子ともよく話す。町子と恵子は親しくしている。それで美知子が恵子に話しをした。話すことで親近感がでて皆がつながっていく。今日もここに来て舞子の兄とも話して新しい風、歌声喫茶の話を聞いて日本の変化をここに来て実感している。先日の文化祭の舞台に掃除機が出てきた。遠くでよく見えなかったがさっきその掃除機を見たのです。トイレに行く途中の廊下の隅に置いてありました。三菱のマークが入っていました。三菱クリーナです。縦型の筒みたいになっている。真ん中のボディは灰色がかった白、両端がブルーになっている。そのうちに掃除機も我が家にもくるようになるだろう」
「そうそう。掃除機は便利よ。埃を全部吸い取ってくれる」
と舞子が話す。
哲也が「その掃除機、ここで見たい」
俊道は「哲也、分かったか。町子の女優への夢はあきらめてこれからは新しい文化に興味を持つことにすればいいよ」
「女優への夢はそんな事情なら分かったが来年の文化祭は町子を主役した何か舞台劇を考えたいね。俺、脚本作る」
「オイオイ。そんなこと言っていいのか。作文嫌いと言っているのに」
「そんなことして見ないとわからない。主役は私にしてね」と舞子が言う。
舞子の兄、達男が掃除機を持って来た。
恵子は文化祭で遠くからみたがこうして目の前で見るのは初めてだった。
達男が説明をする。
「毎日の掃除、箒で掃いて拭いてするとその時間は30分から40分かかるが掃除機を使うと埃りもゴミも吸い取ってくれてたちまちのうちに部屋が綺麗になる。その埃は林檎1個分ほどある。それにはたきでかけた埃りが下に舞い散っている。その埃をまた箒で掃くと上に舞い上がっている。障子のサンの埃も道具を変えれば掃除機でできる。箒とはたきの掃除は重労働で箒とはたきでとれなかった細かいチリも吸い取ってくれるのです」といいながら達男は掃除機からコードを出して電気のコンセントに差し込んだ。
掃除機のどこかのボタンを押すとウーンと音がして哲也が床にこぼしたクッキーの割れた粉を跡形もなく吸い取った。
恵子は目を丸くしてみていた。
俊道は話した。
「これからもっと電化製品が出てくる。女性の家事労働が短縮されると女性はどう過ごしていくのかになってくる。結婚して子育てをする中で女性ができた時間をどう工夫していくのかがこれからの課題になってくる。女性がこれから話し出す時がくると思っている。女性はこれまでのように黙っていると取り残されていく。話さないと時代についていけなくなる。哲也の言う美人は黙っていればそれでいいという時代は死語になっていく。人間のつながりは話して新しい発見をしていく。舞子がそうだ。舞子はおしゃべりだからいろんなものを吸収している。しかし早い時代の先取りでいつも学校で先生に怒られている。舞子の時代が必ず来る。しかし舞子は現実を見ないでやりすぎもある。夏の暑い時、麦わら帽子をかぶってくるのはいいがまたその麦わら帽子に赤いリボンを巻いている。これを教師に見られて校門の前で生活指導の先生に注意されていた。高校生は高校生らしくいう先生の言葉も一理あるが教師の感覚も古い。日本社会のうねりに対応しないといけないだろう。必ず変わっていく」と話した。
こんなことを話す俊道に恵子はどうして地味な私に興味を持ったのだろうか。
交換日記に何の意味があるのだろうか。
そしてふと気が着いた。
交換日記も言葉である。言葉を綴ることである。
これを声に出して語ることにつながるように仕向けているのかもしれないと思った。


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