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「物語―青春の煌めき」―24―≪卒業してからの進路≫

恵子は家に帰って昨年の夏の古い女学生の友を本箱から出した。
本箱と言ってもミカン箱を3個、縦に積んで本箱にしていた。古い女学生の友は1番下のミカン箱に立ててあった。
付録のジュニァファッションの本も出した。
水色と白のギンガムの半袖と言えば7月号か8月号と思って見ていると去年の7月号の付録の本に由加らしい顔が見えた。
本ではかわいい顔をしている。
日活の俳優の松原智恵子や歌手の中尾ミエと並んで由加の足元のところに沢田由加と名前が書かれていた。
恵子は心の中で名前は沢田由加だったのか思いながら見ていた。
達男とは2歳年下、由加は高校生のような顔立ちをしていたがもうこのモデルの時は高校卒業してモデルに専念していたときでもあった。20歳になったばかりだった。
そういえばこの間、化粧の仕方を教えてもらっているときに由加が話していた。
「10代の終わりごろから大人向けの雑誌、家庭画報からモデルの誘いを受けていたのです。モデルの社会は華やかに見えるのですが皆孤独です。自分が1番綺麗と思っているから誰とも心を許して話せないのです。どこで次ぎのステップのチャンスがあるかもしれない。モデルから女優に転向していく人もいたけど私はモデルの仕事に自分は向いていないと思っていました。
ただ笑顔を向けて微笑みをしているだけです。やはり人は話して声をかけ合ってしていくことで心の対話が生まれていくのです。話さないと何も生まれてこないのです。そんなモデルの仕事に自分は向いていないと悶々と悩みながら女学生の友のモデルをしていたのです。
日本が高度成長に入っていました。東京の若者たちは関西や九州旅行する人が出始めて来た時に奈良に行ったのです。奈良は京都と違って昔のそのままの景色が残っています。古代史が息づいているのか心を癒してくれる町です。女友だちと奈良に行って奈良公園を散歩していて達男さんのトランペットの音色に心が吸い込まれるようにその場所にいました。
こんなに心が落ち着く町に住みたいと思っていたときに達男さんと出会いました。今の仕事がずっと人間らしいです。喫茶店に来られた人と『こんにちは』『いらっしゃい』『今日はいい天気ですね』と声をかけるとたいていの人は『今日、猿沢池に行くと秋の陽だまりに亀が岩にあがって日向ぼっこしていました』『土産物屋さんで奈良のせんべいを買ってきました』と言って持ってきてくれる人となにげない会話に声を出して話し笑うことに生きている実感を感じています」と話していた。
女学生の友の付録としてついているファッションの本、白と水色のギンガムの半袖の服、ショールカラーの衿にちょうちんそでは半袖、前ボタンの服は腰で切り替えてギャザーを寄せてスカートにしたワンピース、腰のところに白いエナメルベルトをしていた。にっこり微笑むその顔は悩みがあるように見えない。
華やかなモデル、何も悩みがないように見える。悩みを抱えていても笑顔で撮影する。撮影が終ると皆、バラバラに帰っていった。
女優や歌手はお付の人がいて車での送迎、次の仕事があるからさっさと帰っていく。他のモデル仲間もデートする人もいたが自分を売り込むために上の人と一緒に食事をする人もいた。これが由加にはたえられなかったらしい。
男性の話しを黙って聞いている。黙って聞いていることで男性は満足している。
それが由加にはたえられなかった。
女性も自分の心を持っている。話す言葉を持っている。
セリフを言う女優業の選択もあったがハードな撮影に追われていく。それよりも女優は脱ぐ、脱がないということでいずれは報道のさらし者になっていくことに由加の性には合わなかった。
公務員の父親と主婦をしている家庭で育った由加、地味だが自分の考えをきちんと持っていて話をした。
恵子は東京の女性とは皆こんなのだろうかと思った。
自分のことをきちんと話ができる。女性でそういことができるのは恵子の住んでいる田舎ではほとんど見られなかった。
恵子の周りは男性の話しを従順に聞いている女性がほとんどだった。
はっきり言葉にできるのは恵子の周りでは舞子と美知子ぐらいだった。
舞子はおしゃれで校則違反していても堂々とふるまっていた。こんなことも勇気がいるのに舞子は怖いものなしなのか違反ばかりしていた。
美知子は授業中に教師に意見をした。
教師が何かの所用で自習になったとき美知子はすかさず
「先生、1時間の月謝代返して下さい」と言う。言われた教師は
「自習も授業だ」と言い返した。そんなことを思っていると
「こんにちは」と言う声が玄関からした。
恵子は部屋から縁側に出て土間に降りて玄関の戸を開けると美知子が玄関前に立っていた。美知子は恵子の家に近くにあった貸本屋からの帰りだった。
「貸本屋に行った帰り寄ってみたの」という。
美知子は紺の厚手の半コートを着て真っ赤な顔して立っている。首には白い毛糸で編んだマフラーを巻いていた。
「寒い。入ってもいい」
「はい。どうぞ」と恵子は行って玄関脇にあった恵子の部屋に上げた。

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