So-net無料ブログ作成
検索選択

「物語―青春の煌めき」―26―≪卒業してからの進路≫

卒業式がすんで4月の洋裁学校の入学までまだ1ヶ月近くも休みがあった。卒業式を終えた日、中庭で卒業証書片手にクラス仲間と話していた。田川俊道も卒業証書を持って中庭の一角でクラス仲間と集まっていた。
そんなとき俊道がそっと離れて美山恵子の集まっているグループのところに来た。舞子を呼んだ。
舞子は
「美山さん。田川さんが呼んでいる」と恵子に言ってきた。
恵子はクラス仲間のところを離れて俊道のところに行くと俊道は
「明後日、国鉄木津駅の列車、午前10時12分の列車、1番前の車輌に乗って。奈良の町を久しぶりに歩こう。誰も誘わないで2人で歩こう」
と言った。恵子は
「明後日3月10日、10時12分、奈良行の列車の1番前の車輌に乗るわ。わかったわ」
と言ってクラスメイトのところに戻った。
舞子は
「何の話だったの」
と聞いたが恵子は黙った。
俊道が舞子に知られてもよかったら舞子も誘うはずだが今回は舞子に恵子を呼んできてもらって俊道は恵子に一緒の列車に乗ることを伝えてきた。
恵子は黙った。
舞子は黙っている恵子にそれ以上何も聞かなかった。
卒業式から2日目の朝、10時12分の奈良行列車、1番前の車輌に乗った。
列車はそんなに混んでいないのに俊道は列車のドアの前に立っていた。
恵子は1番前の車輌に乗っている俊道を見つけた。
後ろのドアから乗った恵子を振り返って見ていた。
俊道は
「これからどこに行くかわかる」
と聞く。恵子は
「わからない」
と答えた。俊道は
「これから奈良市西ノ京の唐招提寺に行く。奈良県庁に勤めることになって奈良県の歴史も知らないなら史跡やお寺も知らない。1人でいくより同じ行くなら美山さんと行こうと県庁の採用試験に合格してからそんなことを考えていた。
そしたら大和路を訪ねた堀辰雄がいた。この人の本に『大和路・信濃路』の本を見つけた。文庫本だが読んでみると面白い。本の中にあるお寺や史跡を訪ねてみようと思って今日は西ノ京にある唐招提寺に行くことにしたから」
と、恵子を見ながら話した。恵子は
「私、唐招提寺も行ったことないし奈良のことはよく知らない」
「これから一緒に行って勉強すればいい。俺は唐招提寺に親父に連れられて1度、小学校6年の時に行ったことがある。お袋が町内会の婦人会の人たちと和歌山に一泊旅行に行った時に一人っ子の俺が不憫に思ったのか、それとも親父が行きたかったのかお袋の留守の時に俺を連れて行ったので1度だけ行ったことがある。親父はあれやこれやと説明するけれど何もわからなかった。何を話しかも覚えていない。覚えているのは千手観音像の背中についたたくさんの手に驚いて親父に『この手が怖い』と言ったら親父は『何も怖くない。この手は体を守ってくれるものもあれば勉強ができるように守ってくれる手もあるから何も怖くない』と話してくれてその手が何も怖くなくなったことだけ記憶している」
「そうですか。子どもにはそんなに怖くなるような手ですか」
「ああ、子どもが見ると怖いかもしれない。今日行って見ると分かるから」
「じゃ、楽しみにしている」
列車はジーゼル、いつしか奈良県境のあたりを走っていて奈良駅に着いたのは10時25分に着いた。
奈良駅に着くと改札口を出た。
改札口を出て近鉄電車の油坂駅に向かった、国鉄奈良駅から歩いて5分もかからないところにあった。階段を上って上本町行急行が来たのでこの電車に乗った。1駅向こうの大和西大寺駅で降りて今度は橿原神宮行各駅停車に乗換えた。
大和西大寺駅の1番奥のホームにあった。
ここから電車にまた乗って尼ヶ辻駅を通って次ぎの駅、西ノ京で降りた。
俊道が茶色のジャンパーのポケットから地図を出した。
地図を見ながら民家の間を歩いた。土塀があちらこちらに残る民家に歴史の足跡が感じるようだった。
俊道は
「ここは奈良市五条町になるらしい」
「ここも奈良市ですか」
「そうだ」
やっと唐招提寺の門の前にきた。
門の前は大きい通りになっている。
3月は観光シーズンにまだなのか人影は誰もいなかった。
俊道は
「少しだけここに座ろう」
と門の前の階段に腰かけた。
「門の柱はエンタシスと言って真ん中が少しふくらんでいる。これが特徴らしい」
「中学校の美術で習った」
「そうだった。習った」
俊道と恵子は違う中学校だったが相楽郡内の教科書は同じだった。
「卒業したら洋裁学校に行くことになっているが俺は県庁に勤める。県庁は半ドン、洋裁学校は」
「洋裁学校も半ドンです」
「そしたらこれから毎月第4週目の土曜日の半ドンは奈良市内のお寺や史跡巡りをしよう。12時半に近鉄奈良駅で待ち合わせてどこかに行こう。行っておくといつかは役に立つときがあると思っている」
「分かりました。1ヶ月に1回、田川さんと一緒にどこか行けることになるのですか。うれしい」
「もう学校も卒業したので生活指導の教師に睨まれることがないからどこでも見学に行くことができる」
「そうそう。あの朝太郎と会っても平気になりますね」
「中には入ろうか」
と言って俊道は立ち上がりズボンのお尻を手で払った。
恵子も黒のズボンのお尻を手で払った。
高校卒業したてのほやほやのジュニヤカップルが唐招提寺の門の前で春間じかの日差しを浴びていた。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

メッセージを送る

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。